INTRODUCTION

言葉が心を紡ぐ、家族再生の物語

『底なし子の大冒険』『狼少年タチバナ』などで知られる劇団牧羊犬を主宰し、短編映画では国内外の数々の賞を受賞してきた渋谷悠の初長編作品。家族の再生という、映画では幾度となく語られてきたテーマを新鮮な物語へと昇華させ、魅力的な登場人物たちが観る者を心地よく包み込む。主演には、息子を亡くし後悔の波に溺れる漁師・善次に升毅、言葉少なに圧倒的な存在感を見せつける。障がいを抱える娘を懸命に守ろうとする母・透子の心の機微を田中美里が繊細に演じる。聴覚過敏によって聴こえてくる様々な音を擬音語に変えられる才能を持つ美晴役には『麻希のいる世界』主演の日髙麻鈴が挑んだ。その他、和田聰宏、宮本凜音、上原剛史、井上薫、阿南健治らが脇を固める。

STORY

喪失を乗り越えた先に光る、
絆と癒しの涙—

北の小さな町の漁師である善次(升毅)は、喧嘩別れをしてから一度も会っていない息子の光雄(和田聰宏)をがんで亡くす。東京で執り行われた葬儀にも出席せず四十九日を迎えようとしていたところに、光雄の妻の透子(田中美里)が娘の美晴(日髙麻鈴)と凛(宮本凜音)を連れて、善次の元を訪ねてくる。
善次は、突然の訪問に戸惑い、うまく接することができないが、彼女たちを通して亡き息子に想いを馳せる。透子は、聴覚過敏を持つ自閉症の美晴を守るのに必死だ。「もう自分しかいない」という決意は、夫である光雄が亡くなってから更に強まっている。美晴は、守られてきた世界から一歩でも外に踏み出したいと願うものの、失敗したり不安を感じると、布団を被り夢の中に逃げ込む。そこは、父の光雄が生前病床で書いた『美晴に傘を』という絵本の世界であった。

大事なことほど言葉にできない善次。
自分にかけるべき言葉を見失っている透子。
世の中の音を言葉にしていく美晴。
やがて、小さな町の人々との交流も手伝い、善次、透子、美晴は、自分自身の内なる声に耳を傾け始める。

CAST

  • 善次

    北の小さな町の漁師。

  • 透子

    光雄(善次の息子)の妻。

  • 美晴

    光雄と透子の長女。

  • 光雄

    善次の息子。

  • 桐生

    ワイン職人。

  • 正野

    書道家。

  • 二郎

    善次の飲み友達。

  • 光雄と透子の次女。

COMMENT

(順不同・敬称略)

  • 登場人物たちの心を、詩、俳句、絵、書道が解きほぐしていく。背景となる北海道の海と空の青のように、淡く優しく美しい映画です。あの一文字に涙が流れました。
    町山智浩映画評論家映画評論家
  • 優しい気持ちに溢れた、父の死を受け止めていく家族の物語。自閉症の人の心のうちを映画的に表現しようという試みが、とても美しい。
    土屋勝裕プロデューサー
    『龍馬伝』『37セカンズ』『太陽の子』
  • 初監督とは思えない、2時間を90分に感じさせる軽やかな語り口。そして鑑賞後はほのぼのといい気持ちになれる。現実があまりにも悲惨すぎる今の世の中に必要なセーフティーネットのような映画。
    永田芳弘プロデューサー
    『マイ・ブロークン・マリコ』『私の男』『凶悪』
  • 自閉症の美晴が、ぽかぽか、ふわふわ、すやすや、言葉を紡ぎ続けられる世界は、全ての人々が美しく、晴れやかに生きられる世界と同義です。彼らの心に、社会は耳を澄ませられたなら。
    松田崇弥ヘラルボニーヘラルボニー
  • 渋谷悠の視線はいつも優しい。厄介な人もめんどくさいことも、すべて愛すべきこととして包み込んでくれる懐の深さがある。
    本作からもその優しさと、そして、一歩踏み出す勇気をもらった。足がすくんでも、きっと美晴のおまじないが背中を押してくれる。
    水野 昌プロデューサー
    『キリエのうた』『ラストレター』
  • 想いを言葉に乗せることで人は前に進んで行ける。煮詰まったり、頑なになったりしがちな大人の女性にこそ観てほしい。アタマとココロを柔らかくほぐして、温めてくれるから。
    天野扶美美的GRAND編集長美的GRAND編集長

STAFF

脚本・監督:渋谷 悠 Yu Shibuya

PROFILE

1979年、東京都生まれ。日英バイリンガルの劇作家、脚本家、映画監督。アメリカ・インディアナ州パーデュー大学院にて創作文学の修士号を取得。
日米共同制作の短編映画『自転車』(脚本・プロデュース)が第66回ベネチア国際映画祭を含む世界23の映画祭で入選・受賞。日米合作映画『千里眼(CICADA)』(脚本・プロデュース)はロサンゼルスアジア太平洋映画祭やグアム国際映画祭でグランプリを受賞。『パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ WHO I AM シーズン2(ベアトリーチェ・ヴィオ)』(構成)は第46回国際エミー賞にノミネート。2020年、長編オリジナル脚本『ノアの魔法』でNHKサンダンス・インスティテュートフェローに選ばれる。スクリプトドクターとしても活動し、映画『猿楽町で会いましょう』等で共同脚本を務める。
劇団牧羊犬主宰。舞台『底なし子の大冒険』や『狼少年タチバナ』の映像が国内外の映画祭に入選・受賞。舞台『夜の初めの数分間~画子とひまわりの場合~』は佐藤佐吉賞2023最優秀脚本賞を受賞し、第30回日本劇作家協会新人戯曲賞最終候補作に選ばれる。
著書に、日本初のモノローグ集『穴』、 55本の一人芝居を収録したモノローグ集『ハザマ』、戯曲集『底なし子の大冒険/狼少年タチバナ』(以上、全て論創社)がある。

COMMENT

言葉は不思議です。人を縛ることも自由にすることもできる。刃物のように傷つけることもあれば薬のように癒すこともある。心の井戸に毒のように溜まることもあれば湧水に変わることもある。この映画は様々な人生の色んな言葉を撮りました。そして最後は、一つの言葉に向かっていきます。その言葉を受け取りに来てください。

プロデューサー:大川祥吾Showgo Ookawa

PROFILE

1978年、北海道余市町生まれ。
株式会社ケイブでWEBコンテンツの企画や開発を数多く担当。モバイル部門全体の統括マネジメント業務に従事した後、映画制作をする為に独立。動画制作会社アイスクライムを設立し、TVCMや企業VP等の制作をしながら、自身でインディーズ映画の制作を行う。
監督作「サムライオペラ」「水戸黄門Z」等でゆうばり国際ファンタスティック映画祭やショートショートフィルムフェスティバル、山形国際ムービーフェスティバルなど国内外の多くの映画祭で上映。 プロデュース作「千里眼(CICADA)」「獅子の道しるべ」「家族の灯」等も映画祭で数多くの賞を受賞している。